猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「あの室長?大丈夫ですか?……榊さん!」
神宮寺の声に絢士はハッと我に返った。
「ショックでおかしくなったんじゃ……」
「アホかっ!!」
「でもこの人事は悪意ですよ」
泣きそうな顔の部下に絢士は苦笑いする
「そんな顔するな」
ついさっき、年明けからの人事の内示があった。
少し前から噂されていたので、ある程度の覚悟があったとは言えやはり落胆は隠しきれない。
この数ヶ月、絢士が企画した催事は全て成功を納めていた。
だがそれは全て課長の立案という形になっており、その課長からの脅しとも言える誘いを断った結果がこれだ。
年明けから銀座本店の法人外商部って。
絢士はこれまでも自分ではどうにもできない事で何度も悔しい思いをしてきたが、今回は怒りよりもやるせなさを感じている。
何の後ろ楯も持たない自分は、媚びてどこかの派閥に入るのが得策なのはわかっている。
だが、意にそぐわない事をしてそれなりの地位を得られたとして、何が残るのだろう?
「皆、室長の立案だってわかっているのに誰も口に出さないなんて……」
「いいんだよ、所詮俺は会社の歯車の一つなんだ。
だが、おまえの事はもう一度掛け合ってみるから」
「いいえ!僕が室長についていくと部長に言ったんです」
神宮寺の真っ直ぐな瞳に絢士の胸が熱くなった。
「馬鹿だな、おまえ」
「そうかも知れません、でも僕は室長と冒険するのが好きなんです」
そうだ、冒険だ!
わかりきった道を進んでも、面白くもなんともない。
予め宝を渡されてそれを守りながらそこに
とどまるなんて俺はごめんだ。
支配する権力は欲しくない
ここに留まる事以外も考えるタイミングがきているのかもしれないな