猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「冒険か」
「はいっ!いざとなったら、ここを辞めてうちで働きましょう」
「有り難いが俺は甘いものは苦手なんだよ」
「知ってます、でもそれも冒険ですよね!」
絢士は心の底から笑った。
「なるほど、一理ある。とりあえずは新しい冒険がどんなもんか試すとするか」
「はい!それに良いこともありますよ?」
神宮寺が言葉を切って、にやーっと笑った。
「良いこと?」
「出張が減って彼女さんに会う時間が増えるじゃないですか?」
なるほどな、確かに。
なにも、出張があるのは絢士ばかりではなかった。
美桜も仕事で海外へ買い付けに行くので、二人ゆっくり時間が取れる日が中々ない。
それに、彼女の兄貴たちや東堂ヒナタに負ける日が少なくなるのは嬉しい。
東堂ヒナタは……まぁいいとしても(彼女は俺の希望を叶えてくれたし)、俺と兄貴どっちが大事なんだ!とか女々しい事を心の中で叫ばなくても済むかも。
よくわからないが、彼女は時々兄貴の付き添いでチャリティーとか何かの記念パーティに出席する事があるらしい。
金持ちなのはわかっているが、正直どの程度のものかが未だにわからない。
初めにあんな風に拒絶されてしまったから、聞くに聞けないし、今さら聞いて怯むのも格好つかない。
くそっ!どこかのアホが彼女の家目当てで近づいて彼女を傷つけたんだ。
もしそいつが現れたら、一発殴ってやる。
「きっと彼女さんも喜びますね。あっ、でもお土産の楽しみが減るか……」
「おまえ、人の恋愛の心配なんかしてないで自分はどうしたんだ?」
「僕もふらっと出掛けて来ようかな」
神宮寺が隣に来て、笑いながら窓の外を見下ろした。
「上司をからかうとは見上げた根性だ」
「あっ!いや……あれっ?伝票が一枚この辺に…おかしいな、どこだろう?」
わざとらしくデスクに戻る神宮寺を笑って、
絢士はまた窓の外を見た。