猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

あの日、あの絵をきっかけに……

「あっ！！」

「へっ？！どうかしました？」

神宮寺がビクッと振り返った。

「見せてない……」

「何をですか？！企画書？精算書？！」

慌てる神宮寺をよそに、絢士は呟いた。

「絵だ」

「えっ？？絵？」

すっかり忘れていた。

美桜も何も言わないから……
あんなに必死に見たいと言っていたのに。

俺が忙しいからって言い出せないのだろうか？

まさか、本当に俺をナンパしたとか？

「あの……室長？そんな顔してるのはまさかとは思いますが、彼女さんの事を考えているんじゃないですよね？

「あっ！？いや……うるさい」

まんまと神宮寺に仕返しされてしまった。

「絵ってなんですか？」

「いいんだよ！こっちの話だ」

まあいい。
どちらにせよ、自分の事を話す時にはあの絵も必要になるだろう。

母の絵……

あのあと見直して見たら、美桜の店の絵と自分の持つ絵は微妙に違っていた。

彼女の店にあるのは夏の風景で城があった。
それに、猫の瞳はブルーとオレンジのオッドアイ。
絵の事はよくわからないが、店の絵からは躍動感を感じる。

だが、俺の持つ絵は秋だ。
城はなくて可愛らしい花が飾られた家で猫の瞳がイエローとオレンジだった。
あの絵からは何て言うか……安らぎや温かみを感じる。

アイルランドだと言ってたな。

これまで拒否してきたが、
思いきってみゆきさんに聞いてみようか？

そうだな、その時が来たのかもしれない

自分を知ってもらうには
俺自身が知る必要があるだろう。

善は急げだ。

今日は実家に帰ろう。

絢士はえたいの知れない不安が込み上げてくるのを、無理矢理追い払った。