猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

夏の絵


「さてと……」

食器を片付けたみゆきはカウンターから出てきて絢士の隣に座った。

「何から話そうかしら……」

その顔は、勿体ぶっているんじゃない。
本当に迷っているんだとわかる。

「ヤバイ話?」

おどける絢士にみゆきが力なく笑った。

「そうかもね」

胸が嫌な予感でざわざわしだす。

「俺の持っている絵には何があるの?」

「待って、綾乃に言われた順番があるのよ」

みゆきは大きく息を吸って、それをふぅーっと長く吐き出した。

あっ
絢士はごくりと唾を飲み込んだ。

みゆきの顔つきが変わった。

「あの絵はね、絢士の持ってる絵は四部作の最後の一枚だそうよ」

「はっ!?全部で四枚あるってこと?!」

予想とは違った答えに絢士は驚いてみゆきの顔をまじまじと見た。

「そうよ」

みゆきがもう一度ふぅーっと息を吐いた。

「綾乃がね、留学先で描いたものらしいわ。
……と言っても絢士のは日本に帰ってから仕上げたって言ってた けどね。四季それぞれと猫を描いたって言ってたわ。絢士が持ってるのは秋」

春は親切な御夫婦に、冬は親友に、綾乃は具体的な名前は言わずにそう言って最後に夏の絵の話を始めた。

「四季?じゃあ、あの絵は夏か…」

「っ!!」

絢士の呟きにみゆきがヒイッと息をのんだ。

「みゆきさん?!」

「……いま、夏って言った?」

みゆきは細かく震えだした手を、絢士の見えない所で握りしめた。

「俺が似てるなと思って見たのは、たぶん夏の絵だと思うけれど……」

「どんな絵?!詳しく言いなさい!」

みゆきの捲し立てるような勢いに押されて絢士は早口で答えた。

「風景の緑が青々と躍動的で眩しい感じで猫の瞳はブルーとオレンジ。そびえ立つような大きな城がある」

ああ、それは間違いない。

綾乃が話してくれた最初に手放した絵。

「どこで見たの?」

そこが肝心だ。
まさか絢士は……

綾乃、どうしたらいいのよ

「それがさ、その絵のせいで彼女と知り合えたっていうか……」

「なんですって?!その娘はどうして絵を持ってるの?」

「いや、えっとさ……」

絢士はふらりと寄ったアンティークショップで、美桜と出逢ったいきさつを話して聞かせた。

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