猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「そうだったのね」
最悪だ。
みゆきの頭は完全に混乱していた。
夏の絵はおまえの父親が持っていると言うはずだったのに、鼻持ちならない金持ち男は売り払ったのだろうか?
なんて男なのよ!
せめて思い出に持っていてくれたら、息子にとっても救いになっただろうに。
その娘は何で絢士の絵を見たいなんて言ったのだろう?
確かに私の息子はいい男だけれど、ナンパの理由に会社まで押し掛けて絵を見せてくれなんて言うだろうか?
でもその前に!!
もっと恐ろしい事がある
その娘が何者か、だ。
売り物じゃない絵、もしも、まさかとは思うけれど
持っているのが父親の絵だからなんて事になったら……
みゆきは恐ろしさに震え、ビールをぐいっと煽った。
「絢士、あなた父親のこと知りたいと思ったことあるでしょ?」
「ないよ、俺には父親も母親もいるから」
「馬鹿だね」
みゆきはぐっと涙をこらえた。
「馬鹿なのは承知だろ?」
絢士はおどけてみゆきのグラスにビールを注いだ。
やはりな。
絵は、母さんの秘密に繋がっているんだ。
父親の事など今さら聞いてどうなる?
絢士は話を終わらせたい気持ちを押さえ込んで、話を続けた。