猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「母さんは画家だったの?」
グラスの飲み口を指で撫でながらみゆきは首を振った。
「いずれはそうなったと思うよ。でも残念ながら芽が出る前に……」
「じゃあ何で四部作の一枚しか手元にないんだよ?」
「春の絵は親切な御夫婦に、冬は親友に頼んで買って貰ったって言ってた」
金に困って……
絢士はみゆきさんが言わない言葉を読み取った。
母さんは手放したくなかっただろうが俺のせいで……
取り戻したい
全て揃えて見てみたい
母さんの渾身の作品を
絢士は不思議な気持ちだった。
家族はみゆきさんだけだと、母親の事はいつの間にか封印して父親と同じ初めから居なかったと思うようになっていたが。
こうして蓋を開けてみれば、母さんはしっかり心の中にいる。
「みゆきさんそれ、どこか知ってる?」
「迷惑をかけたくないから自分の居場所を教えたくないって言ってね、あたしもあえて聞かなかったのよ」
みゆきは思い出して、残念そうにまた首を振った。
綾乃はきっと言えば私がその人達に、病状を知らせるって思ったから、絶対に言わなかった。
絵を買って貰っただけで十分迷惑をかけたし
こんな姿は見せられないと。
あれ?
あと一枚は誰に?……まさか、嘘だろ?
「……夏の絵は?」
絢士はみゆきが言わなかった一枚に焦燥を感じた。
なぜ夏の絵を美桜が持っているのだろう?
母さんと美桜に何か繋がりがあるというのか?!
「母さんは夏の絵は誰に?」
「絢士……」
「まさか……」
嘘だろ?
夏の絵……
あの絵は父さんに……
「そう。おまえの考えてる通りだよ」
「……と…うさんに?」
みゆきがゆっくりうなずいた。
「絢士、その娘さんがどうして夏の絵を持っているのか早急に知る必要があるよ」
「なんで?」
みゆきが言おうとしている事がわからず、絢士は不信げに瞳を細めた。
「その……おまえたちがそういう関係になっているんだとしたら……」
その事に思い当たった瞬間、絢士の背筋がゾッとした。
まさか……
まさか……
……俺と美桜が?!
絢士は込み上げてくる吐き気をどうにかこらえた。