猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
頑固者たち
麻生美桜(あそうみおう)は先ほどから手に持っている名刺をずっと眺めてい た。
朝早く、開店前に現れたお客さまからもらった名刺。
昨夜のうちに入荷してきた食器がどうしても気になって早く出勤してきたら……
誰かがお店に入ってきた音がしてので、表をのぞいてみると熱心にあの絵を見る彼がいた。
自分ではOPENにしていたつもりはなかったのに、彼は強引に?!違うわ、鍵だってかけていたはずだったもの。
-花菱デパート 企画開発本部
室長 榊 絢士-
ドキッとするような笑顔で渡された名刺にはそう書かれている。
絵を見る真剣な表情が素敵で、思わず見とれてしまったのは、ちゃんと瞳の見えている女なら仕方ないって、親友の日向(ひなた)なら納得してくれるはずよ。
すらりとした体にセンスのいいスーツ。
少しくせのある茶色の髪は流行の無造作なスタイルに形づけられていた。
そしてあの低めの甘い柔らかな声
あの声で自分の名前を呼ばれたらどんな感じかしら……
そんな風に考えた自分に驚いて、 美桜は誰もいない店内を慌てて見渡した。
声と一緒でとても柔らかい印象の彼は、バリバリ仕事をこなすタイプには見えないけれど、想像する年齢でこの役職だとすると、仕事ができるはずね。
外見からしてどんな女性でも彼に口説かれたらコロッといきそう。
ううん、あれは口説かなくたって女性の方から寄ってくるタイプよ。
だから私がナンパしたなんて!
思い出したら何だか悔しくなってきた。
そんなつもりじゃなかったのに!
それにしても……同じものを持っていると言ってた。
花菱デパートの一社員の彼がどうして?
まさか嘘?!……いいえ、あの柄を言われたら、嘘とは思えない。
ならばどうして?
美桜の眉間の皺が一層深くなった。