猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
整えたばかりの絢士の心臓が、また早鐘のように胸を打ちだした。
「美桜、俺に何か言う事ないか?」
ダメだ!おどけて明るく言うつもりが、低い声で脅すようになってしまった。
「言い難いことだとは思うよ」
「えっ?」
少し怯えたような彼女の顔に、内心で舌打ちした。
「なんでそんな顔するんだよ」
自分の事で余裕のない絢士は、彼女の様子が本当におかしい事に気づけなかった。
「何か大事な事を隠してるとか?」
「どうしてそんな事……」
「まさか、やましい事があるのか?!」
「そんなことないっ!」
腕を掴まれて絢士はハッとした。
彼女の瞳が揺れている。
クソッ、俺は何をしてるんだ!
美桜を責めてどうする!
落ち着け、そんなはずはないんだから。
瞳を閉じて軽く息を吐き出した。
「絢士さん?」
瞳を開けて絢士はわざとらしく壁を見た。
「ナンパだな、やっぱり。美桜は俺を口説く口実にコレ使ったんだ」
無理矢理に近かったが、今度は笑顔を作れたと思う。
「あ!違うわ!本当に!!」
彼女が俺の視線を追って絵を見た途端、慌てて首を振った。
「忘れていた訳じゃないの、でも絢士さん忙しそうだし……何だか言い出せなかったの」
美桜に返答に絢士の緊張の糸が切れた。
違うに決まってるじゃないか。
「へっ?!あっ……」
絢士は躊躇いを捨てて、いつものように彼女を抱き寄せる。
「遠慮なんてしなくていいんだよ」
「うん」
絢士は彼女の肩におでこをつけた。
こんな気持ちにさせられる女は他に居なかったんだ。
頼むよ、絶対に違うって言ってくれ!