猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
全速力で駆け抜けたように肩で息をしながら、美桜は絢士にしがみついていた。
嵐のように奪われた。
彼に刻まれた激しい動きのリズムで心臓がドクドク打っている。
服は……信じられないけれど、ワンピースのボタンが上の方がいくつか外れているだけで彼の上着以外、床に落ちているものは一枚もない。
「大丈夫か?」
気づかう絢士の声に美桜は首を振った。
喉が少し痛い。
声が出せるかしら。
「この体勢……」
私はまだ彼を包み込んだままだ。
「ごめん、辛くさせた?」
絢士は心配そうな顔で頬を両手で挟んだ。
「違う………」
『恥ずかしいの!』って言って、彼の手を払って顔を隠すよう首にしがみつく。
「そんな可愛い事言うと調子に乗るよ、俺」
背中を撫でた手が下へ降りてくる。
「あっ…絢士っ…もぅだめっ……」
「わかってる」
絢士はポケットからハンカチを出して、恥ずかしくて自分から降りられない美桜をキスをしながらそっと身体を離した。
「勝手に開けるよ」
服を直すと、絢士は立ち上がって冷蔵庫を開けて、さっきもらったのと同じペットボトルの水を取った。
「奥にこんなのあったんだ」
冷蔵庫の隣にある透明の扉の部屋を見て驚いた。
こういう部屋の事は知っている。
貴重な美術品を保管する為に温、湿度、空調が管理されてるんだ。
もちろん、その部屋の中にも絵画とか壺みたいなものがいくつか置かれているのが見える。
まさかこんな小さな店舗の奥にこんな部屋があるとは
冷静になってぐるりと見渡せば、ワインセラーもあるし表の店舗部分よりもこっちの方がはるかに広い。
「絢士さん探検中の所申し訳ないけど、そのお水は私の為よね?」
服を直した美桜が少し掠れた声で恨めしそうにこっちを見ている。
「ああ」
啼かせ過ぎたか。
でも正直、まだ足りない。
今日はもう美桜を離したくない。
絢士は蓋を開けると、差し出された彼女の手を無視してニヤリと笑った。
「どうして?」
「飲ませてあげるよ」
「ちょっと!」
ぐいっと水を口に含んで、拒まれる前に彼女の顎を掴んで唇を重ねた。
「ああ、溢れちゃった」
飲みきれず首筋に流れた水を絢士がペロッと舐めて笑った。
「やっ……」
まだ敏感な肌がビクッと反応すると、彼が笑みを更に深くした。
「もう!意地悪はやめて」
「美桜が可愛すぎなのが悪いだろ」
「そんなの知らないっ!」
ぷいっと横を向くと、肩を抱き寄せられる。