猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「美桜」
優しく包み込むように名前を呼ばれて全身が甘く震えた。
「ずるい」
「何が?」
そうやって何があったのか話さないつもりなんでしょう?
「何でもないわ」
問い詰めない美桜に、クスッと彼が笑った。
『話すよ、ちゃんと全部。今じゃないけど』
「え?」
「何があったのか聞きたいって、顔に書いてある」
「そんなこと……」
「なくないだろ」
美桜の言葉の続きを言って、彼が優しく笑っている。
「なあ、明日の休みの予定、変更させて」
「それはかまわないけど……」
明日は二人で合わせた仕事が休みの日。
美桜の希望で、またあの植物園へ行こうと話していた。
「じゃあ、今日は帰らないって家に電話」
「え?」
「邪悪な方の兄貴に、彼の家に泊まりますって言っていいよ」
「絢士さん?!」
美桜は彼の言葉の真意をはかりかねた。
邪悪な兄貴とは蓮のことだ。
陽人の事は物臭兄貴とか呼んではいるが、それなりに親しみを持っているみたいだけど、蓮の事はどこか警戒しているみたいで。
何度か蓮が会いたがっていることを伝えても
上手くかわされていたのに。
父親代わりの歳も離れている兄の蓮をそういう風に考えるのは当然だと思うし、蓮だってそういうつもりで会いたがっているのだけれども。
「大丈夫、この三ヶ月結構鍛えたから」
それは身体を見ているので知ってます。
そうじゃなくて。