猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

すれ違い


絢士さんのマンションは、実は家からそう遠くない場所にあった。

植物園の帰り住所を告げた時、お嬢様とか言って怯んでいたけど考えてみたら彼だってそれなりに高給取りなのよね。

美桜は先にシャワーを借りて彼と交代すると、髪を乾かしてからリビングのソファーに座った。

「あら、これ素敵」

ソファーの座り心地に満足しながら、シンプルだけど、どこか温かみのある彼らしい家具で統一されている部屋をぐるりと見渡した。

キッチンはきれいに片付けてあるようだし、
脱ぎ散らかした服や食べ散らかしたあともないみたい。

これなら一緒に住んでも口煩くならなくてよさそうじゃない?

「やだ」

気が早い事を……
でも、『愛してる』確かに彼はそう言った。
真剣なもの、前に進みたいっていうのは結婚って事?

そうよ、間違いない

ほらね、オババとの約束なんて心配する必要なかったわ。春までに幸せを手に入れられたじゃない!

【本当にそうかな?】

「えっ?!」

美桜はハッとして声が聞こえた窓際を見た。

「やだわ、空耳なんて……」

キラッと何かが光ったガラスケースに視線が止まった。

「あっ」

そばに駆け寄って見ると、懐中時計とか古い金貨やシニカルな木製のワニの置物に並んで、あのクリスタルの猫がしたり顔で笑っていた。

【彼はおまえの真実の姿を愛しているのか?】

「……わかってる」

そうよ、わかってる
ここまできたら、自分の素性を話さなければならないって。

でも、私がASO の人間だからって何?

関係ないなんて言わないけれど、普通の家とちょっと違ったって、私は私よ。

大河内家のことだって、いざとなったら関係ないわ!
例え絢士さんの血がどんなものでも私は彼を愛してるの。

それ以上に大切な事なんてないでしょ!

は笑って受け入れてくれるはずよ。

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