猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「絢士さんは大丈夫よ……」
ふんっと猫にそっぽを向いた所で絢士さんと瞳があってしまった。
「あっ……」
「誰と会話してるのかと思ったら」
バスルームから出てきた彼は苦笑いしながら、近づいてきた。
「このコに良いところに置いてもらったわねって話してたの」
独り言を聞かれた恥ずかしさを誤魔化すように言い訳をすると、少し緊張した顔をした彼に引き寄せられた。
「邪悪な兄貴は何て言ってた?」
ここについてすぐ、絢士さんがスーツを着替えている間に蓮に電話をしたけれど……
「えっとね『覚悟は出来てるだろうな!』って言い出したから切っちゃった」
「覚悟……」
「蓮なんか機嫌が悪かったみたい」
「いやいや、それはさ……参ったな、相当ヤバそうだな……邪悪な兄貴はどれくらい強いんだ?」
「さあ。うーん…蓮が誰かに負けたって話は聞いたことがないかも」
「うっ」
絢士さんの呻きに笑うと、彼は拗ねたようにソファーで項垂れた。
「殴られるような事はしてないけどさ、一発くらい黙ってやられるべきだよな?」
「そうかもしれない?」
「なんだよ、そこは『私が守ってあげる』だろ?」
真剣に悩む絢士さんが可笑しくてついクスクス笑うと、彼の胸に引き寄せられる。
頭の上に顎が乗せられて抱き締める腕に力が込められた。
「絢士さん…、本気?」
ちゃんと言葉にしてもらいたい
それを打ち明ける勇気に変えるから
「何が?」
「蓮はそういうつもりだって思ったよ」
「そういうつもり?」
「えっと……その……きゃっ!」
身体が反転して覆い被さって見下ろす彼の真剣な眼差しに胸がドキンと高鳴る。
「そういうつもりでなければ、実家になんて連れていかないよ」
「それって……んっ」
【結婚】はっきり言葉にしてくれない彼に、抗議のような瞳を向けると、言わなくてもわかるだろって言うように唇が塞がれた。
「どうして?」
言葉にしてくれないの?
最後まで言えずに、言葉を飲み込んだ。
「ううん、なんでもない」
首を振ると、絢士さんがウーンと唸ってから照れたような顔で小さく笑った。
「美桜の考えてる事であってるよ。でもごめん、今ここでその言葉を言うつもりはない」
「どうして?」
「せっかくだから流されてじゃなく言いたいなんて、ロマンチックなこと考えてるからだよ、笑うなよ!」
言いながら絢士は美桜の左手を持ち上げて薬指に口づけられた。