RUBY EYE
元々、十夜はむやみやたらと血を飲んだりしない。
鷹斗からストイックだとか言われるが、そんなんじゃない。
血の誘惑を押さえ込むのは、自我を失わないためだ。
自我を失い人間を襲うなんて、それこそ化け物だ。
(椿の言う通りだ)
この辺りで血を飲まないと、本当に月野を襲ってしまうかもしれない。
彼女を襲って、恐怖に怯える彼女の瞳に、自分の姿を映したくはない。
バスルームに満ちる月野の匂いに、喉が鳴る。
「はぁ・・・・・・」
沸き上がる衝動を抑えるため、十夜は必死に理性を働かせていた。
「本当に急なんだから! これだから無駄に偉い奴は嫌いなのよ」
新品のシーツを運びながら、椿はぶつぶつと文句を吐き出す。
「あまり不平ばかり言っていると、綺麗な顔が台なしだぞ」
「・・・・・・小野瀬さん。なら、手伝ってくださいよ」