RUBY EYE

無言で洗剤を手に取る十夜を、椿が不思議そうに見つめる。


「何、機嫌悪いわね? 月野ちゃんと喧嘩でもしたの?」

「そんなんじゃない」


喧嘩などしていない。

ただ、胸の中が得体の知れない感情で掻き混ぜられて、苛立たしいだけだ。


静貴はフェミニストだ。

手の甲にキスするのだって、彼からすれば特に騒ぎ立てる程のことでもない。


「部屋に戻る」

「ちょっと!」


洗い物の半分も終えぬまま、十夜はキッチンを出ていく。


「もうっ! こっちはただでさえ、あの傲慢我が儘女に苛立ってる、っていうのに!」


椿は割りそうな勢いで、溜まった洗い物を片付けていった。










美鶴の自室を訪れたのは、梨瀬とその弟―――伊織。

美鶴は寝間着姿で、ハーブティーを飲んでいた。


「椿、お前は下がって」

「・・・・・・失礼致します」


梨瀬の言葉に、一瞬だけ眉間に皺を寄せて、椿は部屋を出た。


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