RUBY EYE

否応なしに、月野の香りが部屋には充満する。


「危なくなったら、出ていく」

「・・・・・・気をつけなさいよ」


椿はそれ以上、何も言わなかった。


「月野ちゃん、風邪引いたって聞いたけど?」


キッチンに戻ってきた椿を、静貴が出迎える。


「だから何ですか?」

「お見舞いに行くべきかな、って」


椿の目が、細く鋭くなる。

殺意の滲むその目に、静貴は苦笑する。


「そんなに怒らなくても」

「私が知らないとでも? ここで、月野ちゃんを惑わすようなことを言ったわね?」

「ただの助言だよ。このままじゃ、十夜くんが可哀相だから―――っ」


手にしたアイスピックをクルリと持ち替えて、椿は鋭い先端を静貴の喉元に突き付ける。


「あの子にこれ以上、ちょっかい出さないで」

「随分と気に入ってるんだね」

「えぇ、とても。私達の正体を知っても、あの子は私達からも、その事実からも目を背けなかった」


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