RUBY EYE
吸血
季節は夏に移り変わろうとしていた。
太陽が日ごと光りを増しているように思え、生い茂る緑は濃く存在を主張する。
「珍しい来客ですね」
書斎にやって来た人物を見て、美鶴は微かに身を硬くした。
「そうだね。たまには、母さんの顔を見たくなる日もあるよ」
伊織はそう言って、ソファーに腰を下ろした。
「何の用です?」
「何も」
天井を見上げ、伊織は黙ったまま動かない。
まるで人形のようだ、とよく思った。
兄の慧は、溢れ出る力とカリスマ性に、男女問わず、多くの者が魅力されていた。
姉の梨瀬は、蝶が羽ばたき新しい花を求めるよう、常に華やかさを纏い、視線を集める子だった。
その弟である伊織は、いつも慧の後を追いかけ、慧に心酔していたように思う。
慧が家を出たと知ると、梨瀬は怒りにかられ、ありとあらゆる物を壊しまくったが、伊織は一瞬、目を伏せただけだった。