RUBY EYE
その名前を聞いた瞬間、月野の体が小さく震えた。
1番最初に月野を襲い、ヴァンパイアの存在と恐怖を教えた男。
「あら、伊織様。まだいらしたんですか?」
手折られた薔薇を抱えた椿が、十夜以上に遠慮のない物言いをする。
「もう帰るよ。じゃあね、ふたりとも」
「・・・・・・さよなら」
月野は俯いて、十夜は軽く会釈をして伊織を見送った。
「月野ちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
笑顔を浮かべて、月野は階段を駆け上がる。
「十夜」
「なんだ?」
肘で小突かれて、十夜が眉間に皺を寄せる。
「わかってるでしょう? 月野ちゃん、怖がってるのよ。安心させてあげなさい」
背中を押された十夜は、早足で階段を上がる。
(それにしても、伊織様は何の用だったのかしら・・・・・・)
梨瀬に連れられでもしない限り、滅多に紅玉館には足を運ばないのに。