RUBY EYE

十夜が頼み事なんて、初めてじゃないだろうか。


「抱きしめていいか?」

「・・・・・・私を?」


頷く十夜に、月野は一瞬迷ったが、コクリと頷き返した。


「ん・・・・・・」


椅子から立ち上がった月野を、十夜が優しく抱きしめた。

腰と背中に回る手が、徐々に強くなり、ふたりの隙間を埋めていく。


(綾織くんの匂い・・・・・・)


肩に顔を寄せる形で、十夜の香りが鼻を通り抜ける。


「・・・・・・んっ」


十夜が強く抱きしめると、月野は小さく声を上げる。

何も言わない十夜に、月野は戸惑ってしまい、ある言葉を思い出してしまった。

【好きな奴、いる?】

鷹斗に言われた言葉を、何故、今思い出すのか。


月野は頬を赤らめ、目を伏せた。


「ありがとう。行ってくる」

「う、うん」


何事もなかったかのように部屋を出ていく十夜。

心臓が激しく鳴って、月野はしばらく、課題をする気分になれなかった。


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