RUBY EYE
光彦がいなくなると、十夜は疲れたようなため息を漏らした。
「坊ちゃんが紅玉館へ住みだして、光彦さんは頻繁に本家へ足を運ぶようになりました」
十夜の部屋へ向かいながら、秦は語る。
「あの人は、当主になりたいらしいからな」
「当主への媚も、あからさまで」
秦は苦笑し、襖を開けた。
十夜の部屋は、綺麗に掃除されており、出ていった時と何も変わらない状態だった。
「朧村正」
部屋の奥に置かれた、一本の刀。
綾織家の家宝とも言える名刀・朧村正だ。
「坊ちゃんがいない間も、きちんと手入れをしていますよ」
「そうか・・・・・・」
嬉しそうに刀身を見つめ、十夜は顔を上げた。
「秦。以前、咎堕ちが逃げ出した件だが」
「・・・・・・」
話を切り出すと、秦は苦い顔をした。
「実は、逃がしたのは音無 伊織ではないか、という話が・・・・・・」
「どういうことだ?」