RUBY EYE
昔から、父親が苦手だった。
当主として綾織家をまとめることは尊敬できても、決して父親とは呼べない。
「音無の次男が不審な動きをしていることくらい、わかっている」
十夜の前に腰を下ろし、時臣は淡々と告げる。
「手引した者も、おおよその判断はついている」
「では―――」
「私の懸念は別にある」
時臣が、十夜の言葉を遮った。
「ダンピール―――あの混血児のことだ」
月野の話が出るとは予想外で、十夜は一瞬、目を見開いた。
「お前も知っているだろう。ダンピールは、ヴァンパイアを殺せる。いとも容易くな」
時臣の声が、重くなる。
「あの娘は、災いだ。音無の当主は、運命を変え、ヴァンパイアを救うというが、私には信じられん」
確かに、美鶴の言うダンピールに殺されたヴァンパイアは救われる、というのは伝承でしかない。
しかし、本人の意図しないところで、他者の運命を変えているのも確かだ。