RUBY EYE
掴まれた腕が痛い。
爪が食い込んで、白い肌から血が伝う。
「いい香り」
血の匂いに、摩耶が微笑む。
牙が見えた気がして、月野はゾクリと背筋に寒気が走った。
「―――ッ!」
ナイフが掴まれていない方の腕を掠めた。
血が流れるたびに、摩耶は嬉しそうに笑う。
「ふふ。十夜の傍には、私だけいればいいの」
冷たい笑みと、鋭く光るナイフが、正常な思考を奪う。
逃げなきゃ殺される。
わかっているのに、体が動かない。
傷つけられた腕が、熱を帯びて痛む。
「だから―――あんたはいらない」
「―――!!」
時臣と秦の声が、遠くで聞こえる。
月野の視界は、赤ではなくて、黒で染まった。
人肌の温もりと共に訪れたのは、生暖かい血の香り。
それは、どこか薔薇の香りを思わせるほど、真っ赤だった―――。