RUBY EYE
彼が家を捨てた時、秦はまだ子供で、慧は憧れの人も同然だった。
強く、凛々しく、かといって偉ぶったりもしない。
人間の女性を選んだと聞かされた時、多くの者が落胆と失望を胸に抱いたが、それでも彼への憧憬は奥底に宿っている。
そんな人が、今、自分の前にいるなんて。
「それより、椿の手助けに行ってくれ」
「椿?」
「教会に行ってもらってるんだが、娘もそこにいるだろう」
教会と聞き、秦は唇を噛んだ。
十夜から言われていた。
自分の帰りが遅ければ、摩耶を見てきてほしい、と。
結果、摩耶は伊織の手助けのもと脱牢。
秦は伊織を捕らえたが、十夜については何も聞けずにいた。
「・・・・・・わかりました。でも、静貴のマンション、わかりますか?」
「あぁ〜・・・・・・場所だけ、教えてくれるか?」
なんだか、思い描いていた慧の想像と、少しばかり違うような気がする。
こんな感じの人だったのか。
「ありがとう。じゃあ、娘をよろしく頼むよ」