RUBY EYE

彼が家を捨てた時、秦はまだ子供で、慧は憧れの人も同然だった。

強く、凛々しく、かといって偉ぶったりもしない。

人間の女性を選んだと聞かされた時、多くの者が落胆と失望を胸に抱いたが、それでも彼への憧憬は奥底に宿っている。


そんな人が、今、自分の前にいるなんて。


「それより、椿の手助けに行ってくれ」

「椿?」

「教会に行ってもらってるんだが、娘もそこにいるだろう」


教会と聞き、秦は唇を噛んだ。

十夜から言われていた。

自分の帰りが遅ければ、摩耶を見てきてほしい、と。

結果、摩耶は伊織の手助けのもと脱牢。

秦は伊織を捕らえたが、十夜については何も聞けずにいた。


「・・・・・・わかりました。でも、静貴のマンション、わかりますか?」

「あぁ〜・・・・・・場所だけ、教えてくれるか?」


なんだか、思い描いていた慧の想像と、少しばかり違うような気がする。

こんな感じの人だったのか。


「ありがとう。じゃあ、娘をよろしく頼むよ」


< 359 / 403 >

この作品をシェア

pagetop