RUBY EYE

「まさか、死ぬとは思っていなかったけど、結果、楽しめたからいいかな、って」

「楽しめたからいいって・・・・・・。それだけのために?」


光彦を利用した。

彼は、確かに狂ったような理想を描いてはいたけど、そこにはヴァンパイアに対する誇りと愛があった。

でも、静貴には―――。


「僕は楽しければいいんだよ」


ワインを飲み干し、濡れた口元を拭う。

艶めいていながら、恐怖を感じる。


「君には感謝してるんだよ、月野ちゃん」

「感謝?」

「そう。君が来たことで、僕の運命は大きく変わった」


ヴァンパイアとして生きるのは、普通の人間として生きるより、遥かに刺激的だ。

けれど、それでは満たされない飢えた心。

奥底に眠る破壊衝動と、刹那主義。

それらを、穏やかな笑顔の仮面で、隠してきた。


「今僕は、とても楽しくて、とても幸せだ」


もう隠す必要などない。

静貴はこの時、初めて笑顔の仮面を剥ぎ取った。


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