RUBY EYE
壊れかかる心を守るための、現実逃避にも似た言葉。
「綾織くん・・・・・・」
「十夜に触らないで!」
悲痛な摩耶の叫び。
一途に愛を求める彼女は、痛々しい。
「十夜。十夜は私を愛してるわ。だって、そう言ってくれたもの」
あの日、彼女のために告げた、偽りの愛してる。
そこには、微塵の愛情も込められてはいない。
冷たい、酷いと言われても、十夜は反論などしないだろう。
非を受け入れて尚、偽れぬ気持ちがある。
「摩耶・・・・・・」
十夜は静かに目を伏せ、思いを馳せた。
彼女と初めて会った時。
彼女が許婚となった時。
彼女が、十夜と仲良く遊ぶ妹に嫉妬したこと。
彼女が、教会で嬉しそうに行った結婚式のまね事。
彼女が、十夜に告白した女の子を傷つけたこと。
彼女が、死んだと聞いて出向いた葬儀のこと。
君が悪いんじゃない。
愛してあげられなくてごめん。