RUBY EYE

壊れかかる心を守るための、現実逃避にも似た言葉。


「綾織くん・・・・・・」

「十夜に触らないで!」


悲痛な摩耶の叫び。

一途に愛を求める彼女は、痛々しい。


「十夜。十夜は私を愛してるわ。だって、そう言ってくれたもの」


あの日、彼女のために告げた、偽りの愛してる。

そこには、微塵の愛情も込められてはいない。

冷たい、酷いと言われても、十夜は反論などしないだろう。

非を受け入れて尚、偽れぬ気持ちがある。


「摩耶・・・・・・」


十夜は静かに目を伏せ、思いを馳せた。


彼女と初めて会った時。

彼女が許婚となった時。

彼女が、十夜と仲良く遊ぶ妹に嫉妬したこと。

彼女が、教会で嬉しそうに行った結婚式のまね事。

彼女が、十夜に告白した女の子を傷つけたこと。

彼女が、死んだと聞いて出向いた葬儀のこと。


君が悪いんじゃない。

愛してあげられなくてごめん。


< 380 / 403 >

この作品をシェア

pagetop