RUBY EYE

慧がいれば、音無家は安泰だ。


「お前の娘を、十夜は気に入っているようだし・・・・・・」

「戻るなんて考え、家を捨てると決めたあの時に、一緒に捨てましたよ」


自分が選んだのは、ヴァンパイアの世界ではない。

この世で唯一、愛した人間の女性。

そして、誕生したのは最愛の娘。


「帰る場所は、妻の笑顔が待つ場所です」

「そうか・・・・・・」


胸に刻んだ覚悟は強い。

慧が再びこの地を訪れたのは、娘のため。


「美鶴殿は・・・・・・いや、なんでもない」


時臣は首を振り、立ち去る慧を見送るため、大広間を出た。


「では。もう会わないことを願って」

「・・・・・・そうだな」


慧は変わらぬ笑みを浮かべて、消えていく。


「帰りましたのね」

「・・・・・・朔」


振り返れば、病弱な妻。

時臣は眉間を険しくするが、朔は気にせず腕を組む。


「綺麗な月ですわ、時臣様」

「・・・・・・あぁ、そうだな」


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