エレーナ再びそれぞれの想い

　ところが、あれから数年が経ったある日。
「シュウの母親が見つかったって？」
驚いて聞き返す、結衣。
「ええ、白川家が経営する病院に入院しているって聞いたわ」
郁乃は病院から聞いた事を話した。
「じゃあ、シュウを母親の元に返した方が良いのでは」
結衣が提案した。
「それは、もう少し様子を見て、しばらく待った方が……」
郁乃はなぜか慎重だ。
ところが、シュウがたまたま、部屋の外でその話を聞いていたのだ。
郁乃も結衣もそうとは気づかなかった。
「中沼さん、お母さん見つかったそうです」
「それは、良かったですね」
母に会えると、あれほど嬉しそうなシュウは初めてだった。
中沼はシュウに付き添い、彼の母が入院する病院へ行った。
シュウの母は、なぜか、産婦人科病棟にいた。
「お母さん」
シュウは病室の母の元に駆け寄った。
「お母さん」
とシュウは話し掛けた。
シュウの母は、なぜか産まれたばかりの赤ん坊を抱いていた。
「あれ、その子は」
シュウは赤ん坊に目をやった。
母は、シュウの姿に驚き、こわばったような表情をした。
そこへ見知らぬ男性が入って来た。
「また来てくれたんだね」
母は、男性を見ると微笑んだ。
「ん？　この子は？」
男性がシュウに気づいた。
「ううん、知らない子」
母は首を横に振った。
「この子変なのよ。さっきから私の事、お母さん、お母さんって」
知らない子って……
この時のシュウのショックは想像を絶するものだった。
「お母さん、お母さんてば！」
「だめだよ、勝手に人の部屋に入って来たら。お母さんの元に帰りな」
男性から部屋を追い出され、ドアを閉められてしまった。
それは、母から「知らない子」と言われショックを受けたシュウの心にさらに
追い打ちをかけるものだった。