エレーナ再びそれぞれの想い
「新天上界を設立したマリアンヌは、ここを離れる時、巨大樹の若い苗木を持って行きました。
今では立派に育っているはずです。それに、若い分まだ生命力があります。
もし、新天上界の種や苗木を分けてもらえれば、わずかであっても天上界の延命は可能です。
その間に、清らかな心を持つ人間を捜しだし、我々に協力を求めればいいのですが、現実はかなり難しいでしょうね」
エレガンス幹部はそう言うと老木を仰いだ。
「マリアンヌは頑なに私達に心を閉ざしたままで、交渉はなかなか進みません。
でも、今は対立などしている時じゃありません。
こんな事を続けていれば、今は若さゆえに生命力を保っている新天上界の巨大樹とて、いずれ危なくなります。
それは、マリアンヌ自身一番よく分かっているはずなのですが……」
有望で将来の可能性があり、妹のように可愛がってきた天使との断絶。
マリアンヌの気持ちを誰よりも理解していたのに、どうする事も出来なかった事への後悔。
「過去に、そんな事が、あったのですか……」
シュウはエレガンス幹部の悲痛な叫びにも似た気持ちを深く感じ取っていた。
シュウは、エレガンス幹部にこう言った。
「どんなに頑張っても、どうする事も出来ない時があります。
貴方はきっと、誰よりも辛い思いをされてきたのですね」
この時、エレガンス幹部はハッとさせられた。
自らの悲痛なる叫びに、シュウの心が深く共鳴しているのを感じ取ったエレガンス幹部。
人の心の苦しみや悲しみを、誰よりも敏感に感じ取ってしまうシュウ。
天使にとっては当たり前の能力であるが、人間でそこまで出来る者は、なかなかいない。
この少年は、誰よりも清らかな心を持つ人間。
だが、残念ながら既に幽霊という現実。
エレガンス幹部は、改めてそう思い知らされた。
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