エレーナ再びそれぞれの想い
「これは、巨大樹の枝です。こちらは、すでに枯れてしまった物。
今かろうじて生き残っている物でも、どれも黒ずんで、こんな状態です」
マリアンヌとて、天上界の巨大樹がここまでひどい状態にあるとは、思ってもみなかった。
「もう、過去の事で争っている時間はありません。
お願いです。天上界を助けて下さい。
エレガンス幹部の話しによると、新天上界の苗木や種を使っても、わずかしかもたないそうです。気休め程度にしかならないかもしれません。
それでも僕は、エレーナさん達には、少しでも長く生きていて欲しいんです」
我が身が滅んでも、大切な人を護ろうとする。
この時マリアンヌには、シュウの姿が、あの時の青年と重なって見えた。
「貴方、名前は?」
「白川シュウです」
「こちらへ来て」
マリアンヌは、シュウと、エレーナ達を外へ連れ出した。
向かった先には、天上界の巨大樹ほど大きくはないが、それなりに成長した同じ植物があった。
若く、生命力に満ち溢れ、生き々とした新天上界の巨大樹。
「これが、巨大樹の本当の姿よ」
マリアンヌが巨大樹を指さした。
「これが本当の姿ですか。このように元気なのは初めて見ました」
シュウは感心する。
「天上界の巨大樹も、少し前まではこうだったんです。
でも、人間社会の荒廃で、巨大樹の生命の源となる、清らかな心を持つ人間が激減してしまったのです。
巨大樹は、人間の清らかな心から生きるエネルギーをもらうことが出来なくなり、急速に寿命が縮みました」
さやかが、天上界の巨大樹の現状を話した。
「天上界の巨大樹があそこまで悪化していたとは、思わなかった」
マリアンヌはシオミを呼ぶと、ふたりで巨大樹の苗木と種を、出来るだけたくさん集め、それをエレーナ達に渡した。
「これを、持って行きなさい。でも、勘違いしないで。
私はまだ、天上界に協力するって決めた訳じゃない。
それにエレガンス幹部達も許した訳じゃない。
私がここまでするのは、間違った規則を振りかざし、偉そうにしている、天上界の幹部達のためじゃなく、あくまでも、天上界のせいで、私達から巨大樹の苗木や種をもらえずに困っている後輩達を救うため。
そして、大切な人を救いたいと思うシュウ、貴方のためよ。
シュウ、私は貴方が気に入ったわ」
マリアンヌは、この時、初めて穏やかな表情をシュウやエレーナ達に見せたのだった。
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