エレーナ再びそれぞれの想い

エレーナに力を与え、上級クラスに格上げする案が浮上してきた。
それを知ったジェシー・クリスタルは、エレガンス幹部に不満を漏らした。
「確かに、エレーナは契約者想いで、ある意味最も天使らしい天使なのかもしれません。
だが、それが問題なんです。
だいたい、あいつは優し過ぎます。
契約者に下手に感情移入し過ぎるから、いざという時に冷静で的確な判断能力を失い、何も出来ないんです。
だから、シュウをかばって柚原なつみに斬られたり、シュウが災害現場で、産
みの母の写真を見つけてパニックになった時も、何も出来なかったんです。
私は、エレーナのピンチを何度も救いました。
今まで数々の実績を積み上げて来ました。
それに、運動神経だって私の方が上です。
その私がエレーナより格下というのは、納得がいきません」
「エレーナ昇格は、まだ決まった訳じゃありません。
それに、天使の実力には個人差があります。
同じクラスでも、標準的な力の者から、ワンランク上のクラスに限りなく近い者までさまざまです。
確かにジェシーは、高い能力をもっています。
されど……」
幹部はそう言いかけて少し厳しい表情になった。
「ジェシー、なぜ貴方は人間界で契約業務が無く、契約管理官という裏方の仕
事を任されていると思いますか？」
エレガンス幹部の突然の質問に、
「私にこの仕事が適任だから、幹部達は任せたんだと思います」
とジェシーはすかさず答えた。
「そうですね。職務に忠実で真面目な貴方に向いているからです。
特に、契約上のトラブル解決では、貴方のような厳しさも必要です。
でも、それでは、なぜ貴方は人間界での契約業務が無いのかという問いには答えていません」
「それは……」
ジェシーは考え込んだ。だが、答えられなかった。
「じゃあ、もう少し分かりやすく、質問を変えます。
ここにふたりの天使がいます。
何でもそつなくこなす優秀で真面目、職務に忠実で厳しいジェシーの様な天使、
そして、優秀ではあるが時には失敗もする。しかし、とても契約者思いでエレ
ーナの様な天使、ふたりがいます。
もし、人間が契約をするとしたら、どちらを選ぶでしょうか？」
ジェシーは答えられなかった。
でも、本当は、答えを分かっていたのだ。
人間が選ぶのは、自分ではなく多分エレーナだって。
答えられなかったというより、答えたくなかったと言った方がいいかもしれない。