エレーナ再びそれぞれの想い
日本や欧米、オセアニア、アジアの一部の国など、比較的政治や治安が安定している地
域が中心。
だが、世界中見渡せば、政情不安な地域の方が圧倒的に多い。
紛争や貧困を抱えている地域こそ、まさに天上界の助けを必要としていた。
だが、政治、宗教、その他さまざまな価値観の相違などから、天使を受け入れない地域
もあり、あまりにも危険すぎて、天使が入り込めないのだ。
比較的平和な地域でしか活動していないからこそ、戦後生まれの天使達は、純粋な想い
というものを深く理解する機会がなかったのかもしれない。
しかし、待てよ。マリアンヌはさらに考え続けた。
天使は契約者から不幸を取り除く役目がある。
役目を通して、契約者に対する想いを深めているはずである。
その想いは純粋なものである。
さらには、契約者のさまざまな想いを感じ取り、理解しているはずだ。
天使であっても心があり、さまざまな想いを持つのは、人間と同じ……。
じゃあ、新しい天使達に何が足りないんだ?
「契約者から不幸を取り除き、幸せにするという役目を果たすのは当然、
天上界の存続のため、清らかな心の人間を捜すのも絶対必要な役目」
マリアンヌは散々考えをめぐらした。そして深いため息をつくとまた、愚痴った。
「全く天上界の者達は、自分達の役目にとらわれ過ぎて、何か大事な部分が抜け落ちて
いる。
自分達の置かれた状況ががまるで分かっていない。
これじゃ、沈没しかけた船で、他者を救おうとしているのと同じだわ。
そんな船じゃ他人を助けるどころか、みんな死んじゃう。
どうして、義務を果たすばかりで、素直に助けてって言えないの!」
そう言い終えて、マリアンヌはハッとした。
「役目として、契約者に幸せになってほしいと思うのは当然。でもその想いは、契約者
を思いやる事。
でも困った時に誰かに助けてって言えない。
助けを求めると言う事は、相手に自分を想ってもらう事。
そうだ、つまり相手に想いを求める事が出来ていなかったんだ」
独り、うなずき納得をするマリアンヌ。
相手に何かを求めちゃいけないなんて決まりは、どこにもない。
天使と人間の契約は、互いに協力し、助け合う関係。
でも、もしそれでも足りなければ、契約などという規則を超えて、契約していない人間
にも助けを求めたらいい。
マリアンヌの考えはまとまった。
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