エレーナ再びそれぞれの想い

　エレーナが学生寮に帰って来ると、塚本千鶴が泣きじゃくっていた。
どこで聞いたのか、
「白川君が消えるなんて嫌！」
シュウが巨大樹に清らかな心から発するパワーを与えるため、消滅するかもしれないな
どと、エレーナを含む天使達が、クラスメイト達に漏らしてもいないのに、なぜか知っ
ていた。
学校には大勢の人がいる。誰かがエレーナ達の会話を盗み聞きして、バラしたとも考え
られた。
エレーナはまたしてもショックを受けたが、今はそれどころじゃなかった。
シュウは、医療事故で死んだ。だが、本人は本当の事を知らない。
シュウに会ったら、何て言えばいいのか分からず、エレーナの方が今にも泣き出しそう
だ。
泣き続ける千鶴に、
「幽霊なんだから、何時かは成仏する。しょうがないでしょ。
そんな事より、あんた、クラス委員長でしょ。もっとしっかりしなさい！」
業を煮やしたなつみがを叱りつけた。
「白川君をいじめていた貴方には、私の気持ちは分からないわ！」
なつみに対し、千鶴は吐き捨てるようにそう言った。
「あんた、まさか白川が？」
なつみは直感的にもしやと思った。
「そうよ。私は白川君が好き！」
千鶴は、はっきりとそう言ったのだ。
千鶴の気持ちを初めて知ったエレーナは、心が砕けそうになり、逃げるようにその場を
去ろうとした。
そこへ、千鶴が立ちはだかった。
「白川君が消滅しないようにして！　さまざまな能力を持ち、白川君と契約している貴
方だったら出来るでしょ？」
エレーナは、千鶴の顔がまともに見られず、彼女から逃げようとした。
エレーナは泣くのをこらえるのが精いっぱい。既に涙目になりかけていた。
「貴方は、白川君が消えてもいいの？」
千鶴の言葉がエレーナをさらに追い詰めた。
それを聞いていたさやかが、
「これは、シュウ君が天上界の役に立ちたい、と自分で決めた事なの。
シュウ君の決意は固く、私達も止められなかった。
一番辛い想いをしているのは、エレーナさんなのよ」
と、エレーナをかばった。
さやかの必死のフォローに、千鶴はそれ以上エレーナを責める事はしなかった。
エレーナは、心がぐちゃぐちゃになりながらも、突き動かされるような何かを強く感じ
取っていた。
それは、千鶴のシュウを想うピュアな気持ちである。