エレーナ再びそれぞれの想い

　千鶴の部屋に案内されたシュウ。
夕食までふたりで過ごす。
「あの、白川君、私ね……」
そう言ってシュウにすり寄る千鶴。
「あっ、ちょっと塚本さん？」　
シュウはさっと身をかわす。
「どうして私を避けるの？」
千鶴はシュウにしがみついた。そしてそのまま、倒れこんだ。
シュウに抱きつき、
「あの、私、私はね、白川君の……」
「塚本さん、どうしたの？　なんか変だよ」
千鶴はシュウから顔をそむける。シュウの顔がまともに見られない。
その表情は、こわばっている。そして彼女は震えている。
何か深刻な状況に千鶴が陥っていると察知したシュウ。
さりげなく千鶴に話かけてみる。
「お祖父さんに何か言われたの？」
千鶴はハッとし、
「どうしてそれを？」
驚いた様子でシュウを見つめる。
「訳を聞いてもいいかな？　あっ、でも嫌なら無理に、言わなくてもいいけど」
シュウは、千鶴を気遣う。
千鶴は静かに口を開く。
「私は、白川君に気に入られるようもてなせと祖父に命じられました」
シュウの実家は閣僚も輩出した名門実業家。千鶴の祖父は、自らの出世のために
孫娘を使って、シュウに取り入れられようとしていたのだ。
そして、千鶴をシュウと許婚にし、白川家と関係を築き、中央政界への進出をもくろんでいたのだった。
「塚本さん、あとはぼくに任せて下さい」
シュウは自信に満ちた表情で微笑んだ。
だが千鶴はひどく動揺して震えが止まらない。
しくじった事を巌に叱責されることにひどくおびえていた。
「塚本さん、貴方は絶対に怒られない。だから、安心していて下さい」
やがて、食事の席に呼ばれたシュウ。千鶴はシュウのとなりに座り、巌と向き合った。
とりあえず、食事は始まる。三人はしばらく何も話さずに食べていたが、突然巌が、
「ところで、白川君との関係は進んでいるのか？」
巌は、千鶴が当然うまくやっているだろうと思いこんでいた。
「あの、その、それが……」
くちごもる千鶴に、巌はみけんにたちまち深いしわをよせた。
「千鶴！しくじったのか！」
巌の怒号が飛んだ。
「申し訳ございません」
慌てて土下座して謝る千鶴。
「お待ちください。千鶴さんは悪くありません」
すかさず、シュウがフォローを入れる。
「千鶴さんから話を伺いました。御自身の出世のために、孫娘である千鶴さんを
使うのはひどいんじゃありませんか？