エレーナ再びそれぞれの想い

奇跡でも起きないかとすら思った。
そして、静かに眠るシュウの額に、いつの間にか、指を触れようとしている自分がいる事に気がついた。
その時、
「シュウの気持ちを自分の元につなぎとめるために、慎一の記憶を思い出させようなんて考えてはなりませんよ」
エレーナは、エレガンス幹部の言葉を思い出し、手を引っ込めた。
貴方は宮原慎一の生まれ変わりだと、エレーナは今すぐにでもシュウに言いたかった。
しかし、喉まで出かかった言葉を、ぐっとこらえた。
余計な事を言ってはシュウを混乱させるだけだと思ったからだ。
その時、シュウが、
「黒川さん……」
えっとエレーナは思った。
シュウは寝言で黒川の名を呟いたのだ。
それにしても、シュウの夢にまで黒川が出てくるとは……
シュウの夢に自分が出てくることはあるのだろうかと、エレーナはふと考えた。
「んっ？」
シュウがうっすらと目を開けた。
「あれ、エレーナさんっ、手が……」
エレーナは自分でも気がつかないうちにシュウの手を握っていたのだった。
エレーナは慌ててシュウから手を離した。
「エレーナさん、まだ起きていたんですか？」
「うっ、うん、ちょっと寝れなくてね」
シュウは起き上がると、そのままベットに座り込んだ。そして、そそまま物想いにふけっている様子。
シュウは、まだ黒川の夢のことをぼんやりと考えている。エレーナは、
「ちょっと風にあたりませんか？」

　エレーナは、シュウを夜空の散歩に連れ出した。
ふたりが降り立った先は、夜の渚……
夜空を星がまたたき、寄せては返す波のように、ただ静かな時の流れだけが過ぎて行く。
「好きなんでしょ。黒川さんの事？」
「エレーナさん、どうしてそれを」
エレーナが自分の気持ちを知っていたことに驚かされたシュウ。
「さっき、寝言で黒川さんの名を呼んでいましたし……」
シュウはうつむいた。
「でも、なつみさんが言うには、黒川さんは、天使の能力によって若返った、４０代の子持ちのおばさんだって。
クラスメイトの聡美さんが黒川さんの娘だとか……」
「好きならば、それでいいじゃないですか」
「えっ」
エレーナの言葉はに驚くシュウ。
「貴方は、ずっとその気持ちを大切に持ち続けていて下さい」
エレーナの言葉は意外なものであった。
エレーナはさらにこう言った。
「私にも昔、好きな人がいたんです。でもその人はもう死んじゃって……」