エレーナ再びそれぞれの想い
エレーナ、プリシラもシュウの後を追った。
「では、手分けして探しましょう。
エレーナさんと、プリシラさんは、ふた手に分かれて上空から捜して下さい。
僕は登山道を捜します」
エレーナは、登山道周辺を範囲を広げ、プリシラは展望台へ捜しに向かった。
「おかしいですね。展望台で記念撮影した時は、なつみさんも一緒でした。
下りで道に迷ったのでしょうか?」
シュウは、山道を一気に駆け上がる。
幽霊の彼には、急な階段も上り坂も、苦ではない。
生身の人間なら、こんな速度で山を登れない。
ふもとの駐車場では、黒川と一ノ瀬真紀が心配そうに状況を見守る。
特に、黒川はかなり動揺している。
 
 一方その頃、なつみは、独り登山道を下っていた。
だが、いくら歩いてもふもとの駐車場に辿りつけない。
なつみは、展望台から下りて来る時、みんなに後れを取り始めた。
極度の疲労で歩くのが遅いなつみを、後から下りてきた生徒達が次々と追い越し、いつの間にか、列の一番最後から引き離された。
列の最後尾よりさら後ろ、生徒達から離れた場所を引率の教師が歩いていた。
この教師より後から来る者はなく、彼は全ての生徒が自分より前を歩いていると思っていた。
なつみは、生徒の列の最後尾と後ろから来る教師のちょうど中間を歩いていた。
だが不幸な事に、曲がりくねった道で見通しが悪く、列の最後尾からも教師からもなつみの歩く姿は見えなかった。
そして、なつみは、登山道の分岐点に辿り着いた。
だが、分岐点にある案内板は、ひどく錆びていて表示が全く読み取れない。
「あれ、どっちに行けばいいの?」
なつみは迷った。左の道は平坦、右は下り坂だ。
少し考えてから、
「こっちでいいよね」
なつみは右の道へ進んだ。右は下り坂だからふもとまで辿りつけると思った。
ところが、正しい道は左の平坦の道だった。
左の道はしばらくは平坦だが、やがて下りとなり、ふもとまで行ける。
右の道は、隣の山へ縦断するルートだった。
なつみは間違った事に気づかぬまま、どんどん坂を下って行った。
列からはぐれさえしなければ、道を間違えることなどなかったのだ。
砂利道と土の道が交互に入り混じり、急な下り坂で何度もつまずいた。
なつみの疲労は極限まできていた。
シュウやエレーナ達を避けようとして無理に、山頂まで急ぎ過ぎたからだ。

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