エレーナ再びそれぞれの想い
気がつくと、道幅はどんどん狭くなり、人が何とかすれ違える程度になっていた。
道の片側は、急斜面、そして反対側は、断崖絶壁だ。
石がごろごろして歩きにくい。
なつみが歩くと、時折山道の石が崖から転がり落ちた。
そのたびに、なつみはドキッとし、足元を振り返った。
恐る々下を見ると、真っ暗で何も見えない谷底が大口を開けている。
崖から落ちていった石が地面にあたる音は聞こえず、谷底が深い事を思い知らされた。
日は落ち、辺りは薄暗くなってきた。
「おかしいわ。なぜこんなに歩いても、ふもとが見えて来ないの」
なつみは、自分が道を間違えた事に、いまだに気づいていなかった。
なつみは、ふらついていた。
そして「あっ」という悲鳴とともに転んだ。
なつみの足元からいくつの石が転がり、崖から落ちていった。
なつみがゆっくりと立ち上がろうとしたその時の事だった。 
登山道の足場の岩が半分崩れた。
「あー」
なつみは、谷底へ落ちそうになり、とっさに足場の岩にしがみついた。
そのまま上半身だけ岩にぶら下がり宙づり状態となった。
上からは小石がぱらぱらと落ちてくる。
なつみは、恐る々岩肌を登ろうとした。
しかし、足場は非常に不安定で、下手に動けば、岩が崩落して、谷底へ真っ逆さまだ。
助けを呼ぼうにも誰も来るはずがない。
しばらく岩にぶら下がったままの姿勢でいた。
なつみは、下を見てはいけないと自分に言い聞かせ、何とか岩肌ををよじ登ろうとした。
その時、なつみの頭をさまざまな事が駆けめぐっていた。
シュウを追い出せず、クラスの中で孤立した事、自らの斬りつけ事件のせいで
真紀が護衛を辞めさせられることなど、さまざまな事が頭の中をめぐった。
そして、なぜ自分が赤ん坊の頃の写真に黒川が写っていたのか?
いまだにその謎は解けない。
「このままじゃ何ひとつ解決出来ない。
だいたい、私が今までこんな目にあってきたのは、全てあいつのせいじゃない。
白川ひとりに何手こずっているのよ!
それに、なぜあの写真に黒川さんが写っているの!
何も分からないままこんな所で死ぬ訳にはいかない!」
なつみは、自らを叱咤。強い気持ちを奮いたたせた。
そして、崩れかけた岩の少し上の部分に右手を掛けようとしたその時、
つかんだはずの岩が崩れた。
なつみは左手だけで不安定な岩にぶらさがった。
もはや、あとはない。落ちれば終わりだ。

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