エレーナ再びそれぞれの想い
「言いたくないなら、無理に話さなくてもいいです」
シュウは、なつみの気持ちに配慮した。
なつみは、静かに口を開いた。
「私は昔、父に棄てられた。
父は白川家出身で、私を妊娠中だった病弱な母を捨て、同じ一族の女性と結婚した。
母は私の出産後死に、父も数年後に死んだ。
白川家は、一度棄てた私を仕方がなく引き取り、分家である柚原家の養子に出した」
シュウは、なつみの話に愕然とした。
なつみは話を続けた。
「白川家と柚原家には、格差が歴然とし、私は白川本家出身でありながら、本家でたらい回しにされ、厄介払いされてきた。
だから、私は白川家が憎い。そして、私と母を棄てた父も憎い!
白川家の人間はみんな嫌い。もちろん、あんたも。
私の母は、生前、ある天使と契約していた。
でも、その天使は、病弱だった母を助けてはくれなかった。 
母を見殺しにした。だから天使も憎いし嫌い!」
なつみは、声を荒らげた。
「それが、斬り付け事件を起こした訳だったんですか」
なつみがなぜ、自分やエレーナ達を憎むのか、シュウはこの時初めて知った。
「あの護身刀は、私を護るようにと、柚原家の育ての親が真紀に預けた物。
真紀は幼なじみで、剣術修行で腕を上げ、私の護衛になった。
真紀も幼い頃、母親と共に父に棄てられ、ふたりで苦労してきた。
私達は、似たような境遇の者同士、すぐに打ち解けた」
そう話すなつみの眼は遠くを見つめ、どこか寂しげ。
「そうだったんですか」
シュウは、ようやくふたりの事を理解出来たような気がした。
「真紀さんと喧嘩したままですね」
シュウは、ぽつりと呟いた。
なつみは、言葉濁した。
「真紀さんが、どうして剣術を始めたか知っていますか?」
シュウの問いかけにも、なつみはうつむいたままだ。
「これは、エレーナさんが真紀さんから聞いた話しなんですけど、真紀さんは昔、いじめられてばかりで、いつもなつみさんが体を張って護っていた。
正義感にあふれ、強くて、優しい、そんななつみさんに真紀さんは憧れたんです。
そして、何時の日か、今度は自分がなつみさんを護れるようになりたいって。
だから剣術を始めたんです。
なつみさんの親に努力を認められ、貴方の護衛になった時はすごく嬉しかったそうです。
真紀さんは、貴方のせいで護衛をクビになった事を恨んではいませんよ。

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