エレーナ再びそれぞれの想い
むしろ、事件を止められなかったのは、そばにいながら、なつみさんの苦しい気持ちをきちんと受け止められなかった自分のせいだって、彼女は悔やんでいます。
真紀さんはただ、昔のなつみさんに戻ってほしいだけなんです」
シュウの話をなつみは一言もしゃべらず聴いていた。
「いいんですか? 真紀さんにもう、会えなくなっちゃうんですよ。
真紀さんの気持ち、分かってあげて下さい」
 
 登山道入り口の駐車場では、なつみを探しに行ったシュウやエレーナ達が何時までも戻らない事に不安を感じていた真紀。
「先生、私にも行かせて下さい」
「一ノ瀬さん、待ちなさい!」
真紀の耳に、佐倉先生の声は聞こえなかった。
真紀は、登山道を走り登って行った。
黒川も、不安に耐えられなくなり、真紀の後を追いかけようとした。
娘の聡美がとっさに彼女の腕をつかんで、首を横に振った。
聡美に止められた黒川は、その場で思いとどまった。
「真紀さん!」
幽霊の市川まなみが、低空飛行をしながら、登山道を駆け登る真紀に話しかけてきた。
「なつみさんは、この近くにはいないわ」
「今まで、なつみさんを捜してくれていたのか?」
まなみは静かにうなずいた。
「多分、展望台の方にいると思う。急ぎましょう。私につかまって」
まなみは、真紀を抱きかかえると高く飛び上がった。
登山道上空を展望台へと急いだ。人が走って登るより、ずっと早い。
「ひとつ聴いていい? どうして、そこまでしてくれるの?
なつみさんは、貴方にひどい事ばかりしたのに。それに、私だって加担した」
まなみは静かにこう答えた。
「多分、シュウ君のためかな。シュウ君って、誰にでも優しくするでしょ。
しかも、あのなつみさんにまで。
私も最初は理解出来なかったけど、シュウ君に敵意を持っていたクラスメイト達が、彼の誠実さに触れて、ひとり、またひとりと、今ではクラス全体がシュウ君と仲良くなった。
私が、なつみさんに学校を追い出されそうになった時だって、シュウ君やクラスのみんながかばってくれた。
私がみんなと仲良くなれたのは、シュウ君のおかげ。
私ね、シュウ君と出会うまで、ずっと独りだったんだ。
だから、なつみさんのためと言うよりは、シュウ君が喜ぶ顔が見たいから、かな」
そう言うと、まなみは優しく微笑んだ。
真紀とまなみは、途中でエレーナ、プリシラと合流、展望台へと向かった。
 
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