いても、その人間の裏の顔が見えてしまう。


 ずっとドライバーとして仕事をしながら、後部座席に座っている主の様子をじっと見続けていた。


 おそらく政治の世界で辣腕を振るっている以上、多少の金銭スキャンダルには慣れていると思う。


 現に昔、新民党の党首だった渕上玄一(げんいち)が総理だったとき、渕上の汚職事件が浮上し、当時野党にいた社自党の要求で証人喚問されている。


 渕上はちょうど一年で政権を投げ出した。


 俺もあの事件の真相は知っている。


 限りなく黒に近い灰色だった。


 渕上の政権投げ出しで、次に総理になった今川はもっと短命だったのである。


 そして渕上や今川の総理辞職に伴い、当時から党務ばかりだった岩原も一時身を潜めた。


 政界の裏は実にややこしい。


 総理になる男となれない男――、その違いは実に明快だ。
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