気付かれないところで。


 岩原は移動中、ずっとパソコン等のIT機器を使いながら、何かと忙しいようである。


 俺もそういったことに対し、あえて目を瞑っていた。


 単なるお抱え運転手に過ぎないのだから……。


 車が午前十時過ぎに永田町へ辿り着くと、岩原が、


「君はここで待っててくれ。正午前には戻る」


 と言って、車を出ていく。


「分かりました」


 頷き、エンジンを掛けたまま、サイドウインドウを開ける。


 幾分涼しい九月の風が入ってきた。


 ずっとお抱え運転手の仕事をしながら、疲れるのは分かっている。


 大概、車に乗りっぱなしだ。


 上下ともスーツを着て。
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