「おう、おはよう。いつもすまんな」


「いえ。……これからどちらに?」


「今日も永田町まで乗せていってくれ。俺も事務所内で秘書たちと打ち合わせする」


「分かりました」


 冷え込むので暖房を入れる必要があり、エンジンは掛けっぱなしにしていた。


 車内は仄かに暖かい。


 岩原は今日も上下ともグレーのスーツを着ている。


 連日二億円の事務所経費問題と、愛人疑惑の報道があって、多分夜も眠り辛いだろう。


 だが、しぶとい。


 この男は多少の自身の身の汚れなど、まるで気に掛けないようだった。


 それに踏ん張りどころではトコトン踏ん張る力がある。


 蔵橋や中川たち秘書や他の関係者と、しっかり話をしているのだろう。


 俺も気には掛かっていた。
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