へくせん・けっせる
第一話:角砂糖が溶けるまで

日常


四月二日。

今日は良い天気だ。

布団をベランダに干してふかふかに出来る。

ふかふかになった布団にダイブした時のことを考えて、私は思わずにこにこと笑みを浮かべてた。

「よぅし! じゃあ、干しちゃおうっと」

部屋の隅にあるベッドの布団を手に取り、ズルズルと畳の上を引きずりながらベランダに連れていく。

この部屋は、そんなに広くないし狭くもない。

一人暮らしの身としては十分な1LDKだ。

しかも家賃四万でそれなりだし、駅から自転車で五分だし。

かなり良い物件だ。

我ながらここを見つけたのはグッジョブだと思う。

「ふう……ん? ベランダに引っ掛けて干してんのは良いけど、あのシャモジっぽいのでパンパンって叩かないといけないのかな?」

ベランダに干した布団に寄り掛かって、頭をひねった。

だけど、あのシャモジっぽいのは無いし……。

「んー……やっぱり叩いたほうが良いよね。なんかないかな?」

私は部屋の押入れの中に代用出来る物は無いかと、漁ってみることにした。

午前十時の陽射しが、暖かく部屋を包む。

押入れを含めての広さが八畳の部屋。

入口の横にささやかなキッチンが備え付けてある。

キッチンの横に普通サイズの冷蔵庫がある。

頑張って買ったやつだ。

トイレは、キッチンの真ん前に何故かちゃんとある。

風呂、洗濯機は無い。

部屋の真ん中には、四角い浅い茶色のテーブルが一つ。

隅にはベッド、反対側には小さなテレビが横置きにした水色のラックの上に置いてある。

他は、押入れの中に入れている。

ここは、築三十年、緑風荘【りょくふうそう】の二階、八号室。

二階の一番奥のこの場所が、私の住家だ。

「うーん……うちわじゃダメかな? ダメだろうなぁ」

この場所で三年目の春。

来年で大学卒業予定の私は、和宮七穂【かずみや しちほ】という。

今日も、私はゆったりと生きている。

今日もまた、一日を歩き出す。

「おー! いつかの打ち上げ花火が出て来た! これ使えるかも!」

さて、午後は何をしようか?

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