へくせん・けっせる

角砂糖が溶けるまで……


現在、午後二時半過ぎ。

外から涼しい春風が柔らかく吹いてくる。

「……む? 砂糖がまだ溶けきってないな」

コーヒーを飲むと、シャリシャリと、角砂糖の溶け残りが舌に当たった。

混ぜ方が甘かったようだ。

「ま、良いか……今度からぁ……ふわぁ」

今度からは気をつけよう、と言おうとして欠伸が出た。

「むぅ……眠くなってきたかな」

眠気を覚ます効果があるカフェインの含まれたコーヒー。

しかし、そんなコーヒーも春の陽気と静かなこの町の空気には勝てないらしい。

「ふわあぁ……」

また大きい欠伸が出た。

春眠暁を覚えず、と言うことだろうか……。

「私は年中それだな……あはは」

一年中眠気は暁なんか覚えない。

眠い時はとにかく眠いのだ。

「やることやったし……少し寝るかな」

そう言って、テーブルの上に腕を枕にして頭を置いた。

「砂糖が溶けるくらいまで……おやすみ」

誰に呟くでも無く、私はそうして目を閉じた。

多分、とりあえずコーヒーを飲まずに眠るのが嫌だったのだろう。

だけど、もしかして飲んだら眠くなくなるかもしれない。

この眠気のもたらす幸せ気分を邪魔されたくなかった。

そう思ったから、私はコーヒーを飲まずに眠りに落ちることを選んだのだ。

でも、少しコーヒーに申し訳ない気がした。

だからせめて、私は言ったのだ。

角砂糖が溶けるまで、と。

閉じた瞼に見える、光を感じる闇の中。

私は、角砂糖の溶けきったコーヒーを飲み干す夢を見ようと思った。

八畳の部屋の中には、一人の寝息とコーヒーの角砂糖が溶ける音だけが聞こえていた。

そうして、昼が終わっていく。

いつもとあまり変わらない。

暖かい、お日様の光を一杯に受けてふかふかになった布団のような日常が今日も……。

布団……?

「あぁっ!?」

がばり、と私はテーブルから身を起こした。

しかし、いつの間にか寝入っていたようで、すっかり空は夕焼けに染まっていた。

急いで布団に駆け寄って触る。

「あぁ~、やっぱり湿気っちゃってる~! 私のふかふかが~!」

手遅れだった。

今日も一日が過ぎていくのだった。

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