絶対にみちゃダメ!
 うららかな春の陽の光が差し込む教室の中で。

 ばちこーんという派手な音が響き渡った。


「触んないでよ!」

 あたしの強烈な平手が、目の前の黒髪の男の頬にクリーンヒットしたんだ。

 隣の席の女の子が、『あちゃー』という様子で、片手で顔を覆った。

 
 やや、やってしまった。


 我にかえったあたしは、叩いてしまったひりひりする手を片手でさすった。

 男は頬を押さえてうつむいている。



 まずい。

 これは、ひっじょーにまずい状況だよね。

 でも、許せないものは許せない。

 我慢できなかったんだ。



 男が頬を押さえたまま、ゆらりと体勢を立て直した。

「お前……」

 凄みを利かせた低い声に、あたしは思わずゴクリと息を呑んだ。






 何故こんなことになってしまったかというと、時をさかのぼること、10分少々。



 ここは一体どこのホテルですか、というような内装の廊下を、真新しい制服に身を包んだあたしはノシノシ歩いていた。

 長い廊下は白い壁に囲まれていて、床は大理石。

 きっとこの建物は、なんちゃら様式なんて、仰々しい名前がついているんだろうな。
< 2 / 113 >

この作品をシェア

pagetop