絶対にみちゃダメ!
 あたしはため息をつきたくなったけど飲み込んだ。

 せっかく虎のお祝いなのにため息なんてついたら景気が悪くなるもんね。

「じーさまも心配してるからさ、ちょっと顔出してよ」

 そういえば、東雲のじーさまの目の前で倒れたんだっけ。

 あたしは素直にうなずいた。

 ご老人に心配かけたりするのはよくないよね。

 どうも、只者ではない雰囲気だけどさ……見た目じーちゃんだし。

「そしたら、ご飯食べて、それから……」

 無邪気な虎の声が突然真剣になった。

 思わず顔を見上げると、顔つきも真剣だった。

 しばしあたしたちは顔を合わせて見詰め合った。



 なに、まさか部屋に来いとか言わないわよね?



 あたしは虎がいつか言っていた冗談を思い出していた。

 あの時は軽く流したけど、じーさまにまであんな事言ってたし。

 虎はどこまでが冗談でどこからが本気かわからないから気をつけなくっちゃ。




 先に表情を緩めたのは虎だった。

「ダンスでも踊ろう!これから音楽が流れるんだ」

「えーっ、ダンスなんて無理!やったことないし」

「大丈夫。だって小町はAクラスなんだからさ」

 虎は訳のわからないことを言いながら、人懐っこい笑顔をニッコリと浮かべた。





< 82 / 113 >

この作品をシェア

pagetop