死蜂
それが切っ掛けだった。

ボサッと。

音を立てて頭上の木の枝から何かが落ちてくる。

一抱えもあるような大きさのそれは、スズメバチの巣に良く似ていた。

その為に美晴は勿論、恭平達も思わず飛び退る。

…葵だけが平然と立っていた。

薄笑いすら浮かべて。

彼女は待っていたのだ、美晴が来るのを。

美晴の為に探し当てていたのだ、『その巣』を。

…そんな彼女の目の前で、地面に落ちた巣の中から蜂が飛び出してくる。

だが、出てきたのは恭平達がよく知る、縞模様のスズメバチではなかった。

体長40ミリほどの大きさ、恐らく働き蜂なのだろうそれは、ずんぐりした体形で、胸部には細く細かい毛が多い。

全身が黒く、翅も黒い中、胸部の毛は黄色いのでよく目立つ。

体の大きさの割には小さめな羽を持つ。

羽は微かに黒い。

いわゆる『クマバチ』と呼ばれる種に似ていた。

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