死蜂
姿形こそ、まだ面影を残している。

が、もうあれは葵ではない。

目の前で見た筈だ。

彼女は死蜂の女王に寄生されて殺された。

あそこに立っているのは、死蜂に肉体を乗っ取られた、只の肉の塊。

もう葵としての記憶も、意識も、欠片も残っていない。

あるのは、配下の働き蜂を指揮して寄生体を増やす事のみ。

誰か一人でも死蜂に刺されれば、犠牲者は瞬く間に増えていく。

現地の人間は、過去何度もこの死蜂による惨劇を経験し、祖父の代、父親の代と語り継いできたのだ。

だからこの林には近づかなかった。

死蜂を駆除する事もせず、ただただ刺激しないように、林に足を踏み入れる事はなかったのだ。

< 42 / 71 >

この作品をシェア

pagetop