死蜂
こんな状況下で、その事に気付いたのは自分でも驚きだった。

「刺してる…蜂が…」

美晴が震える声で呟く。

既に虫の息だった現地人男性の体を、死蜂が毒針で刺していた。

それを見て思う。

あの蜂にとって、最早『生きているか死んでいるか』は関係ないのだ。

優れたもののみを刺す。

闘争心の強いものを刺す。

そういう意味では、危険を顧みずに死蜂や死体達に立ち向かったあの男性は、この上なく『優れたもの』。

だから刺した。

それが死体に鞭打つ行為だとしても。


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