スイートスキャンダル
「じゃあね、遥。柊、ご馳走様」


「ちょっ……!」


「遥さん!」


伝票を柊君の胸元に押し付けた有紀を追い掛けようとすると、すかさず手首を掴まれてしまった。


少し前にも、こんな事があった。


その時と変わらない手の温もりに、感動にも似た感情が込み上げて来る。


どうすればいいのかわからずに俯くと、柊君があたしの顔を覗き込んだ。


「行かないで。少しでいいので、ちゃんと話をさせて下さい」


真剣な表情を向けられて、胸の奥が妙に熱くなる。


断る事なんて出来なくて、無言のままコクリと頷いた。


「とりあえず、出ましょうか」


注目を浴びていた事すら気付かずにいたあたしを、柊君が優しく笑って促した――…。


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