大嫌いなアイツ
 

…え?
今、何て言った?


私は吉野の顔を見上げた。
でも、吉野は真顔のままで、ただ、私のことを見ていた。
その視線に、私は靴下を脱ぐ動きをつい止めてしまう。


…何で、そんな風に見るの?


動きを止めてしまった私に痺れを切らしたのか、はたまた、私の目線が邪魔だったのか、吉野がめんどくさそうな表情をした。
そして、ふぅと息をついた。


「…トロい。俺が脱がせてもいいのか?」

「はっ!?だっ、ダメに決まってるし!」


私は慌てて、靴下を脱いだ。
同じタイミングで水道の蛇口を捻ってくれる吉野。
私は水道口の下に足を置いた。
水が冷たくて気持ちいい。


「あ、ありがとう」

「いいえ。」


プイッとそっぽ向いてしまったけど、吉野の声には優しさを感じた気がした。


…不思議。
きっと今までなら、そんなこと思わなかった。


 
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