大嫌いなアイツ
「…そっか。嫌われてないなら良かった。嫌われてると思ってたから。お互い勘違いだったってことか」
「!」
―――極上の笑顔なんじゃないだろうか?
吉野が私の髪の毛に口づける姿と嬉しそうな笑顔に、私の心臓はバクバクと鼓動を打つ。
髪の毛にまで神経が通ってるみたいな感覚に陥る。
久しぶりに男の人に対して感じる感覚に、何だか逃げ出したくなる。
…………きゅっと締め付けられる胸の痛みの理由は、もう、1つしか頭に思い浮かばない。
むずむずする気持ちにいてもたってもいられなくて、吉野から目線を外して俯いた。
必死に言葉を絞り出す。
「…よ、吉野、くん。髪の毛、離してくれない?」
「――――…嫌。…って言ったら?」
「!」
予想外の言葉に、顔を上げる。
カーっと顔が熱くなるのを感じた。
と同時に、目に飛び込んできた光。
バスだ。
眩しくて、目を細める。
「…もう、我慢しないから。覚悟してて」
そう耳に入ってきた瞬間、目の前が暗くなった。
「え」
…唇に、温かい柔らかさを感じた。